初めてキラを"好きだ"って気付いたのは何時だっただろうか。
…今となっては思い出せないけど。
幼年時代から俺とキラはずっと一緒で一緒にいるのが当たり前で
そんな毎日の中でただキラを好きで、でも成長するにつれておかしいとは
思えたけど女の子たちよりもずっとキラ1人がただ好きだった。
どんな時も俺の心はキラに共鳴して君を見つけられるよ?
キラがどこにいても俺だけは分かるよ?
プラントと地球で戦争がはじまって、月の幼年学校で一緒だった
アスランとキラは離れることになった。キラの肩にアスランの残した
緑のロボット鳥がいた。ずっとずっとキラはそれを大切に持っていた。
"大切な友人にもらった大切なものだ"と。
争いは2人の心さえも引き裂いて2人は友人同士でもあるにも関わらず争い、
そして傷付き、涙した。だがその争いもようやく終わり2人は友人同士に戻った。
あの日の続きの。
「――――…アスラン」
「キラ…――…お前は……これからどうするつもりなんだ?」
キラが中々言い出せずにいた言葉をアスランは拳を作って小さく尋ねた。
その拳が微かに震えているのがキラの瞳にもはっきりと映った。
恐怖では無い"恐れ"
ちょっとした言葉で壊れてしまいそうな2人の心。
共鳴し合っていて、それなのに2人はまだ辛すぎる決断をしなくては
ならない現実。逃げる事は出来ない現実が2人を待っている。
[sbject.何時かの続き]
キラとアスランは並木道に立っていた。
争いで荒れ果て、枯れてしまった都市の人々の心を癒すはずの並木は
爆撃によって幹が割れていて酷い状態になっていた。
そんな場所を見つめるキラの姿をアスランが見つけて、ようやく声を掛けたのだ。
「…ぁ、あのさ。よく僕がここにいるって分かったね…こんなトコ…」
アスランの真っ直ぐな瞳に耐え切れずにキラは先に目をそらして
崩れた街のビルを遠めに見やる。荒れた都市は灰色く淀んでいて
壊れたコンクリートに吹き付ける風は反響してまるで都市の鳴き声のようにも聞こえる。
「――分かるさ。キラなら…どこにいてもね」
アスランは小さく笑う。息をはくようにゆっくりと声を乗せて瓦礫にたたずむキラの
姿を見て瞳を伏せて。まるでこの街の悲惨さから目を閉じるように、瞳をそらすように。
「アスランはいつもそうだよね。僕が困ってる時には必ず助けに来てくれて、
僕がどこにいても見つけてくれて…」
キラは瓦礫の山からアスランを見下ろして小さく笑んで眉を寄せる。
きゅっと瞑る瞳がまるで泣きそうにも見えるようでアスランは思わず強く拳を握る。
キラの泣き顔は見たくは無いと。
「…そうさ。キラの事なら大体分かるさ!分かってるさ……キラが悩んでる気持ちだって」
アスランの声が上ずって瞳を見開いて瓦礫の山に立つキラを見上げる。
その瞳もまるで泣き出してしまいそうなもので、キラは瞳を開けずに
拳を握って力を込める。2人の間にある開いた距離が二人の問題を露にしていく。
繕う事など出来はしない。2人の心はあまりに近付いた所にあるのだから。
「アスラン……」
「知ってるさ。キラは悩んでる、もう傷はいえた。地球軍は地球に戻って地球の
復興を手伝うべきだって…今まで住んでた街の復興、そうだろ?…それに今の
プラントの状況を見てますますそう思ってる」
アスランの瞳が揺れて、キラはきつく眉を寄せてアスランを見下ろしたまま
泣き出しそうな瞳の自分の目尻に手を運んで指先できつく目元を擦る。
「だって…だって…地球は僕が今まで過ごした所なんだ!暮らしてきて
大事な所なんだ!!」
拳を握ったままのキラにアスランは思わず駆け出す。
瓦礫の山を登って、荒く呼吸をして真っ直ぐにキラを見つめるとその涙ぐんだ
瞳に耐えかねてキラの体を抱きしめる。強く、ただ強く。
「泣くなよ…キラ。キラはコーディネーターなんだ。地球はもう十分に
護ったし、くだらない争いも終わった…もうきっと争いにはならない!なのに…
なのにキラが地球に留まる理由がどこにある!?」
俺は思わず声を上げた。上げなきゃ…泣き出しそうだった。
キラと離れたくないのは俺だ。俺の勝手なエゴだ。
アスランの抱きしめる腕が強くて、近付いたアスランは
あまりに昔と変わっていなくて、僕は泣き出しそうだった。
目が潤んで視界がぼやけて町並みが普段よりずっと崩れて…
僕はただ……ただ…僕は―――…
「アスラン。僕は…きっと僕は地球に帰らなきゃならないよ。
だって僕は軍にたくさんの被害も与えてるから…だからその責任を取らなくちゃ…
例えどんな未来が待っていても…」
キラはただアスランの肩に顔を埋めて涙を飲み込む。
キラの声が微かに震えている事に気付くアスランはキラの体を抱きしめて
縋るようにキラの声に耳を傾ける。キラはキラでこれ以上はもう何も言えない。
まるであの日のように。
「もう争いにはならない。だが軍制度は残るだろう…キラは軍を抜けるべきだ。
戦う理由なんて無いんだ…」
アスランの言葉は命令ようにトゲトゲしくなるがその言い方はまるで
頼むような静かなものであった。
灰色の街に風が吹き抜けて、この街にコダマして声のように聞こえてくる。
2人の間に今あるものは昔2人が、あの日桜並木の下で
交わした言葉と同じ。泣き出してしまいそうな"今"は一体どこへ向かうのか。
僕はもう何も言えなかった。アスランから伝わる熱を感じて
いたけれど何かしたら泣いてしまいそうで、肯定も否定も
出来なくて、僕はただアスランに抱きしめられていた。
未来は誰にもわかるものでは無い。
この灰色の街さえも一年後には色鮮やかな都市へと変わるのだろう。
2人の関係も日々変化してゆくだけで、その先に何が待つのかは分からない。
街も人も共に同じ時を過ごしていき、紛れもなき未来へと向かう。
ここに留まってはいられないのは何時かの桜並木の下の別れと同じものなのだ。
…何時かの続きを。2人はまた何時かの続きの選択を迫られていた。
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シリアスが好きな私の好きな形の文章。
好きなように書けたため完全自己満足。
"良い"と言ってくれる人がいれば嬉しいものです。
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