イザークは少し変わった奴だ
何が何でも1番になりたがるし、上に行きたがる
そういう気持ちは正直俺には分からねぇ
…ホント変な奴
[sbject.君と俺の法則]
プラントのアカデミーの中に他の生徒よりも特に秀でた才を持つ者たちがいる。
数々の試験でトップを取り続けるのがアスラン・ザラ。
彼の右に出るものなどいないの秀でた生徒である。
そして今回の試験でも総合トップに立ったのはアスラン・ザラだった。
「――…くそっ!!くそ、くそ!!この野郎!!」
アカデミーのすぐ側にある寮から激しい声と大きな物音が聞こえてくる。
だが寮に暮らすものは誰も驚いた素振りは見せはしない。
ただ激しい物音がする部屋の前ではその扉にディアッカが凭れかかって
小さく溜め息をつく。廊下を通る人通りも少なくて、静かに暖かな風が吹き抜ける。
ディアッカはぼんやりと虚ろな瞳で向かい側の壁を見ながらふっと腕時計に
目線を落とし、凭れた扉から背を離してその扉を開き様子を伺うように中へと入って行く。
「さてと…そろそろだな――…」
ディアッカは部屋に入るなりその悲惨な現場に深く溜め息をつくが、
凹んだ壁から目線をそらしてダイニングへと入って行く。
奥の部屋から声が聞こえないという事は叫んでいた彼はもう叫び疲れた、という事を
示しているのだ。
ディアッカはダイニングに入ると並んだ棚の奥から紅茶の袋を取り出してカップを
湯銭で暖め紅茶を沸かしだす。
次第に香しいアールグレイの香りが室内に漂い出す。
「――――――…これで良し」
ディアッカは小さく笑んで紅茶のカップを持ってダイニングを出て行く。
香りを連れてダイニングを出ると真っ直ぐに奥の部屋へと進んで先ほどけたたましい声を
あげていた彼の元へと運ぶ。奥の部屋に行くにつれて、ボロボロになった
壁や凹んだ家具類を見やり静かに溜め息をついて奥にある彼の自室をノックする。
「…おいイザークもう暴れ疲れただろ?――…入るぞ」
扉のすぐ側にあるセキュリティーを開くと服も家具もぐちゃぐちゃになった
ベッドに腰掛けて自分を睨み付けてくるイザークを見やりイザークの座る
側で倒れたテーブルを起こしてそのテーブルの上に
カップを置いてイザークの方へと差し出す。
「ほら飲めよ、落ち着くぜ」
ディアッカはそれだけ告げてさっさと背を向けイザークの自室から出て行く。
廊下の乱雑さを見やりディアッカは幾度か深く溜め息をついて荒れた廊下を
片付けていく。
「――ったくイザークの奴。片っ端からぐちゃぐちゃにしやがって…」
小さく声を洩らしながらもディアッカはダイニングから順番に片付けをしていく。
部屋の片づけをするのはいつもディアッカの仕事でイザークはしない…
というかあまりした事が無いため出来ないのだ。
壊れた家具の分別をしながらディアッカは割れたテーブルガラスを片付けて
奥の部屋を見つめる。
「イザークの奴はプライドが高いからな……だからって試験の結果
発表の度に暴れんなっての…」
ディアッカにとってイザークとの付き合いの長さから、イザークの行動パターンは
お見通しだった。アカデミーに入るまでは何でも出来る1番だったイザークだが
アカデミーに入るとアスラン・ザラとの出会いから2番になってしまったのだ。
それでストレス発散に部屋で暴れるのだ。
「――――――――…なんだと、貴様」
ふいに聞こえた声にディアッカはビクっとして動きを止め、ゆっくりと
振り返るとそこには空になったカップを持って壁に凭れかかりディアッカを
見やるイザークの姿があった。
「ィイ、…イザーク!!?」
「悪かったな。馬鹿の1つ覚えみたいに暴れて」
「ぉ、おい!!俺はそんな事は一言も――ッ!!?」
ディアッカが慌ててイザークの側に駆け寄るとイザークの冷ややかな瞳に
ディアッカは小さく溜め息をついて髪を掻き揚げ、イザークの顔を見上げて
空になったカップを受け取る。
イザークの上から見下ろす目線にディアッカは苦笑してその顔を覗き込む。
「だから怒んなって…総合2位だって簡単には取れない順位だぜ?」
ディアッカがイザークの顔を覗くとイザークは真っ直ぐにディアッカを
睨みつけ、ディアッカが目線を落とすとイザークはディアッカの襟首を
掴みつけてディアッカを押し倒す。
「――――――――――ッ!?…イッテェッ!!?」
イザークに押し倒されて何も置いて無いとは言え思い切り床に尻餅を
ついたディアッカが瞳を閉じるとイザークはディアッカの膝に圧し掛かって
目線を落とす。
「――くしょ…ちくしょ!!チクショウ!!」
イザークの声にディアッカは瞳を開いてイザークのその瞳が自分を敵視
していない事が分かり、イザークの肩を片手で軽く引いてイザークの体を
そっと抱き寄せてその背を優しく大きな手で撫でる。
「分かったって…"悔しい"のは。ハイハイ…次がまだあるだろ」
ディアッカはイザークをそっと抱きしめるとしばらくしてイザークの声が
しなくなったかと思えばその息は静かな寝息に変わっていて、
ディアッカは半ば自分に抱きつくように凭れて眠ってしまったイザークの
姿に小さく笑んでそのプラチナブロンドの髪にそっと唇を寄せて口付けると
宙に投げ出されて割れたカップの欠片を見て小さく溜め息をつく。
「…ったく素直じゃねぇんだから」
俺とイザークは付き合いが長い
イザークの隣に立つには努力が必要だ
並大抵の奴じゃ出来ない気の遣い方
俺には出来るかって?――――……ご心配無く
生憎俺は昔から適度に手を抜くのも気を遣うのも得意なんでね
…まぁ大変なのは大変だけどな。
イザークの寝息が次第に小さいものとなるとそれはイザークが
眠りに落ちたという証拠でディアッカは室内にある時計をちらりと見上げて
イザークの体を抱き寄せてゆっくりと立ち上がる。
「――…いつまでも子供じゃないってのになァ」
ディアッカは小さく苦笑してイザークの体を抱上げるとイザークの体を抱いたまま、
ゆっくりと歩いて奥のイザークの自室の方へと運んでいくが、
荒れ果てて枕の中から羽が舞うイザークの自室を見やると深く溜め息をついて
イザークの自室を通り過ぎて、整っていて持ち込んだ私物の少ない自分の部屋へと
連れて行き、広めのベッドにイザークの体を下ろすと流れる細きプラチナブロンド
の髪をそっと撫でてディアッカはその場を離れて静かに扉を閉めると
ダイニングからリビングまで1人で片付けて、深夜にわたってイザークの部屋の
割れたガラスは金属類の処理を施す。
「俺ってホント恵まれないよな――…俺の部屋でもあるのによ」
ディアッカは儚く笑って一通り片付けて綺麗になった部屋を見渡してようやく
自分の部屋へと戻る。
部屋へ戻れば暴れた本人はすでに眠っていて、側に近付かねば分からぬ程の
小さな寝息が聞こえる。
「あーあ。俺も結局コイツには甘いんだよなァ」
ディアッカは口端を上げて笑むと瞳を細めていつもは1人で広いベッドを
半分イザークに貸したままようやく眠りにつく。
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「なんだ貴様――――ッ!!!!」
起床時間の一時間も前に俺はイザークの叫び声に起こされて、仕方無いから
ゆっくりと体を起こして髪を掻き揚げて大きく欠伸をしてやっとの思いで目を開く。
「……―…んだよ、朝っぱらから…」
「寝ぼけるな!何故貴様が俺の隣で寝ている!?」
イザークの甲高い声にまだ眠気に襲われて俺は大きく欠伸をしてイザークの
顔を見やると、イザークはどうやら男2人で寝るには狭いベッドで俺がイザークに
寄り添ってイザークの体を抱き締めて寝ていたのが気に入らなかったらしい。
「お前の後片付けばっかじゃ俺に得が無いだろ――…まだ早いんだし寝ようぜ…ェ?」
俺はまた大きく欠伸をしてイザークの手首を掴んで体を抱き寄せて
イザークの体を組み敷いて抱きしめるとゆっくりと目を閉じる。…ったくまだ俺は眠いんだよ。
「…き、貴様―――ッ!!?何をする!!!」
…だから寝かしてくれよ。これぐらいお前だってしてくれていいだろうが…
誰のために俺が片付けてやったんだか…今はホント眠いんだよ。小言は後で
たっぷり聞いてやるから――――…
イザークが暴れるのにディアッカが優しくイザークの背を撫でて、その柔らかき
髪に軽く唇を寄せると今度はディアッカの方から安らかな寝息が聞こえてくる。
イザークはイザークでディアッカが眠りにつくのを確認すると目線を伏せて
暴れるのをやめる。これが彼のせめてもの感謝の形なのだろう。
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初書きディアイザ。これは友人に宛てたものです。
種グッズを色々貸してくれたI様に捧げ。
萌えをご馳走様でした、せめてもの恩返し。
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